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○○ショートノートショート○○

秋の花粉が舞って、またしてもヨモギに負けてしまっている。
教室の机の横には常に、箱ティッシュがぶらさがる。
「なにぬねのが言えない・・」
今月になって2箱目のティッシュをとると、
いつもよりスッと気持ちいい音がした。
「あれ?」
見ると、最後の1枚だった。
さらにその下には、
小さな1冊のノートが入っていた。

「あ」

箱から出すと、表紙に『幸運なあなたへ』という小さな文字とともに、
その名前がつづられていた。
「恐怖ノート」

都市伝説のようなものだと思っていた。
この学校にまつわる噂話の中で、その「恐怖ノート」は語られている。
突然に、「恐怖ノート」は回ってきて、
受け取った人はその最初のページに従わなければならない。
もしも誰かに話したり、捨てたり、適当に扱ったりしても
何も起こらない。
けれど何故か、途切れることなくノートは渡され続けている、
という噂だった。

「何書いてあるんだろう」
最初のページを開く。
キーンコーン カーンコーン
重い鐘の音が下校時間を知らせた。
時間がとまったような黄金色の宙。
外周しているバスケ部の声。
あぁ、と思った。
「こんなの、誰がはじめたんだろう」
ズボンのポケットからボールペンを取り出し、
そっと新しいページに、
ルールに従って書いた。
名前、時間。思いつけば、詳細も。
できるだけはっきりと、表情を思い浮かべる。
「もう死んでたりして・・」
ほくそ笑み、いや大丈夫だろうなぁと思う。
出しっぱなしの教科書。
黒板の落書き。
5枚の表彰状。
ここに集まり、授業を受ける40人の視る世界。
その世界を逆から眺める自分。
貴重な時間。
もう、戻る事はない時間。





職員玄関から出ると、
用務員のコシダさんが立っていた。
「さようなら」
「はい、お気をつけて」
会釈して進むと、コシダさんは言った。
「斎藤せんせい」
「はい?」
「次の人にも、ちゃんと回してくださいね」
振り返ると、コシダさんはにこにこしていた。
「ちゃんと未来に届けますから」
僕も笑って言った。
「ありがとうございます」
うんうんと頷いて、コシダさんは植え込みのほうへ行ってしまった。


恐怖ノート。
10年後の自分に送る、恐怖のページ。
元気ですか。
何を考えて何をしていますか。
あれは実現しましたか。
太っていませんか。
それを読む頃、自分はどうしているだろうか。
今の自分から見て、恥ずかしくないだろうか。

どっちにしても、きっと、どうにかこうにか、まだ生きてる。
帰りの薬局でマスクを買いながら、そう思った。
16:44 | オレンジの日 | comments(0) | trackbacks(7)
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